偽りのヒーロー


 夏休み前、連絡先を交換するまでたどり着いた。やっと自由にやりとりできるはずの連絡先は、いつ送っても返信が遅い。

自分ばかりが携帯を気にしているなど女みたいで馬鹿げている。



 痺れを切らして、レオを呼びつけ文句を垂れた。

ただただ話を聞いてもらえれば、それでよかったはずなのに、レオとは携帯なんて無機質なものを飛び越えて、遊びに行っているという。無性にむかむかして、レオに八つ当たりをした。



 「直接会いに行けばいい」


勉強のできないレオからすれば、ずいぶんと名案が思い付いたものだ。夏休みに入って時間のできたその日から、菜子の家までの帰り道、往復にして実に一時間以上歩くその道の隣を歩いた。


 特別変わった話はしない。

今日は何があったとか、入荷した花が好きだとか。あの曲を聞いてみたいと言っていたCDは、結城の姉が持っているもので、無断で持ち出して貸し借りをした。
丸裸で貸したCDは、なぜかビニール袋に包まれて返ってくる。この前は書店の袋に入れて返された。

まめなのかなんなんのか近寄れば近づくほどに、新しい何かが見えてくる。

もう少し、深く踏み込んでみたらどうなるだろう。



「夏祭りに行くか」



 口を突いて出た言葉に、慌ててレオも誘って、と言い訳をした。用もないのに、学校のない日に肩を並べて歩いているのだ。その言葉になんらかの駆け引きが含まれているのなんて、言わなくてもわかることだ。

それなのに菜子は、「用事がある」と、開けたはずのドアを思いっきり閉めてくる。



 苛々した。
人の気持ちをいとも簡単に突っぱねて。


一人腹をたてて、菜子のバイト先に行くのをやめた。あんなに毎日のように一緒にいたのだから、何かアクションがあるだろう。

今までの経験則か言えば、焦れた女が連絡をしてきてその後はもっと火が付く、そんな計画だったはずなのに。

連絡はない、一言も。


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