せみしぐれ
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建物を出た瞬間に降り注いだ直射日光と五月蝿いくらいの蝉の声に、私は思わず顔を顰めた。
夏真っ盛り。否、立秋は過ぎたから暦上はもう秋になるのか。
最後の試験が終わり、漸く明日から夏休みとなる。大学生の夏休みは長いが、開始が少し遅いのがネックだった。九州の夏は暑い。
そのまま帰るか、少し買い出しをしてから帰るか迷った末、とりあえずどちらにせよ駅に行かなければならないことに気付いて足を進める。大学から駅までは歩いて十分程。それでもこの季節は汗ばむ、というレベルでは済まないくらいの汗が出る。
ふ、と溜め息を吐いて、どこかで涼みたいという気持ちを駅までは我慢することを決め、ぱっと前を向いた。と、先程はいなかったはずの人影がひとつ。
見覚えのあるものだということに気付いてあ、と声を漏らすと、振り返った彼女にどうしたの、と声をかけた。
「真澄ちゃん」
「……結良先輩」
驚いた様子の彼女に、少しだけ違和感を覚える。それほど驚くことだろうか、と。今日まで試験があることは知っていたはずだから、私がいたっておかしくはないのだが。
「すみません、急に声かけられたからびっくりしちゃいました!」
「そんなに急だった? 真澄ちゃんも大分急に目の前に現れたんだけど……ごめんね?」
「いえっ! それより結良先輩、今帰りですか?」
「うん、試験終わったところ」
「お疲れ様です! じゃあ私、帰るので!」
「ちょ、真澄ちゃん、」
いなくなろうとした彼女に慌てて声をかけた。ぴたり、足を止めた彼女が困ったように私を見る。
自分でも自分の行動に驚いた。帰ろうとしている後輩を、呼び止める意味なんて然程なかったのだけれど。強いて言うのなら、私が帰ることを知っていて、彼女も帰るのに一緒に帰ると言わなかったことだろうか。
いつもは人懐こく、一緒に帰りませんか、と言ってくる後輩だ。まあ、何か用事があるのかもしれないけれど────でも。
困った顔を見せることが、あっただろうか。
「真澄ちゃん、一緒に帰ろうよ」
「え、……でも」
「というか、ご飯、一緒に食べない? お昼食べちゃった?」
時刻は十二時を少し回ったところだ。お昼を誘うにはちょうどいい時間。
うーん、と彼女が悩む様子を見せる。少し様子がおかしいから、ちょっとでも話ができたら、と思ったのだが。
「ちょうどコンビニでお昼買って食べたばっかりで……でも折角先輩が誘ってくれたし、お供します!」
「無理しなくても大丈夫だよ」
「いえっ! 折角の機会ですし!」
「……そう?」
そんな風に言われたら嬉しいに決まっている。