せみしぐれ


じゃあ行こうか、と声をかけると、嬉しそうに駆け寄ってきた彼女を盗み見た。今の反応はいつもの彼女、という感じだったけれど。


この子は、隠すのが上手い、と思う。それに気付いたのはサークルでごたごたしていて中々解決しなかった時だ。


立ち回りが上手い。上手く相手の懐に潜り込んで、色々なことを聞き出していく。時には自分の体験や感想、思いも混ぜて。


ひとの思いを聞くと、人間というものは自分も言わなければならないという意識に駆られる。それを有効利用しているのだろう、けれどその彼女の言葉は、自分を曝け出しているようで頑なに自分を隠していた。


それが彼女、と言ってしまえばそれまでなのだけれど。どうしてそこまで彼女が自分を隠すのか、私にはよく分からない。


私には、時たま本心を話してくれているのに。本当に、たまに。私が気付いていないときもあるけれど、他の人よりは彼女に近い位置にいると、信じている。


────彼女がどう思っているのかは、分からないが。


「結良先輩、どこで食べます?」

「そうだな……真澄ちゃんはどこがいい?」

「……うーん、ファミレスとか?」


ちょっと悩んでそう答えた彼女に、ファミレスね、と相槌を打つ。頭の中でいくつかピックアップして、駅に行く途中にある一軒に寄ることにした。


よくある、学生に優しい料金設定のイタリアンのファミレスである。なんだかんだあまり行かないんですよね、と零す彼女に頷きながら、突き当りを左に曲がった。


「真澄ちゃんは一人暮らしだっけ」

「そうです! 結良先輩もですよね?」

「そうだけど、私結構コンビニとか使っちゃうから……ごたごたあったし不規則なことも多いし」

「あー……でもあれは結良先輩のせいじゃないですよ。寧ろ先輩凄く頑張ってたじゃないですか、それに私実家から野菜持って帰ってくるんで使わなきゃいけないと思うと中々外食とかコンビニとか使わないんですよねえ」

「そっか、真澄ちゃん実家農家だっけ」

「ですよー。だから肉類だけ買ってればいいので食費は多分みんなより低いです」


野菜あるのとないのとじゃ違うもんね、と返すと、そうなんですよね、と元気そうに彼女が声を上げた。知らなかったんです、という彼女は本当に農家育ちで野菜を買うことなんてほとんどなかったんだろうなと察する。


私も一人暮らしで自炊はしているけど、彼女の話を聞いていると全然してないんじゃないかと思ってしまう。以前後輩、つまり彼女の同輩に零したら彼女が別格だと騒いでいたけれど。


本当にいろんなことができるなあ、と感心してしまう。勉強も苦手だと聞いたことはない。


逆に不安になるなあ、と感じるのは多少なりとも本心を聞いたことがあるから。あまり溜め込み過ぎるのはよくないと思いつつ、中々本人に言えないのもまた事実。


「結良先輩ー? 着きましたよ?」


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