せみしぐれ
「ん、あ、ごめんごめん。入ろっか、少し込んでるけど」
「……そうですね、でも二人ですし、大丈夫じゃないでしょうか?」
「かな?」
扉を押して中に入ると、後ろからぴったりと彼女がついてきた。少し不思議に思いながら、涼しい店内に入る。
丁度お昼時ではあったが、中高生は夏休み真っ只中のこの時間、そこまで混んでいるというわけでもなかったようだ。
「お一人様ですかー?」
「あ、えっと、二人です……?」
────え、?
「? ではこちらのお席にどうぞー!」
訳の分からないまま、席に案内されて店員に着いていく。後ろの彼女をちらっと見ると、どこか強張った表情をしていて、
────あ、れ?
彼女は、一体、────いった、い。
窓際の席にしては、外の蝉時雨が耳元で大きな合唱を奏でていた。
「結良先輩ー?」
「……え、あ、ごめ、ん?」
「さっきの店員さん酷いですよねー! 私ちゃんといたのに、見えてなかったんですかね?」
「あ、っと……そう、なんじゃない、かな? 私の後ろにいたし」
それはきっと、違う。だってあの位置でも十分に見えていたはずで、私と彼女が連れではないと思えるほど離れていなかったはずで。
じゃあ、でも、彼女は。
「先輩何食べるんですか? って、私自分食べるつもりないのに私のリクエストですみません」
「それは気にしなくていいよ。デザート系なんか頼めばいいのに」
「えへへ、今月金欠で……それにお昼結構いっぱい食べたので、いらないです」
「……ドリンクバーとか?」
「お冷で十分なので!」
「……そう?」
はい、とはっきり答える彼女に、拭いきれない違和感。寧ろ、その違和感は大きくなっていく一方。
彼女が何かに触っているのを、私は今日一度も見ていない。
そう、店に入る時だって。普段の彼女なら自分からドアを開けて、先輩や同輩、後輩がドアを通るのを待ってからドアを閉めるくらいはするのに、今日はドアすら触れなかった。
まるで、私が開けるのを待っていたかのように。そしてドアが閉まる前に、私にくっついて入ってきて。
微妙な反応だったものの、きっかり二つのお冷を持ってきた店員にお礼を言って、決めたメニューを注文する。その間も、彼女と店員を注視するが、やはりどこかおかしい。
店員が彼女を見ない。二人掛けの席だったから、お冷を置く位置は正しかったけれど、これが四人掛けだったらどうしていたのだろう。カウンターテーブルだったら。