せみしぐれ
「……もう分かっちゃうんですね」
「待って、」
「もう少し、一緒にいたかったです」
「待ってよ、」
「ごめんなさい、貴方なら受け入れてくれるんじゃないかって、期待して、……ごめんなさい」
「貴方は」
「……私は」
ぱたり、と彼女の頬を滑り落ちた涙が、テーブルをすり抜けて落ちていくのが見えた。
「会えてよかったです。少しでも。迷惑かけてすみませんでした。……で、も、私」
嗚呼、そうか。
一般的に考えれば有り得ないことで、どうしたらそういう思考になるのかどうか自分でもよく分からない。
でも、それしか考えられないと思ったのだ。ありえないけれど、だって、目の前の彼女は。
一人暮らしではなくて、寮の一人部屋。歳は私の一つ下の、専門学生。実家が農家で、二週間に一度は帰って野菜や米を持って帰っている。兄の二人いる私とは違って三人兄弟の長女。普段友達からは『おかん』と呼ばれていて、よく頼りにされているけれど自分のことはあまり話さない。その代わり、逃げ場と称しているSNS上ではよく自分の気持ちを流している。
そうか、うん、そうだね。
「気付けなくて、すみません。……桜さん、ですよね」
そう、呼びかけると、彼女は────桜さんは、嬉しそうに、本当に嬉しそうに、綺麗な笑顔を見せた。
「貴方なら、分かってくれると信じてました」
「気付くのが遅くなってしまって、すみません」
「謝らないでください。……イレギュラーなのは、分かってますから」
「……どうして、」
そう、問いかけると、今度は哀しそうな笑みに変わる。突っ込まない方がいいのかもしれないとは思ったけれど、でも、私を信じてくれて来てくれたのだとしたら、その気持ちに答えないわけにはいかないと、そう思って。
桜さん、と二度目の呼びかけで、彼女がそっと口を開く。暫くの間逡巡している彼女を待つ間、私は言葉を挟まない。
「……ちょっと、耐えきれなく、なっちゃって、」
自殺、しようとしたんです。
予想、していなかったわけではなかった。けれどその口から直接聞くのとではまた別で、
「さくら、さ」
「手首を、切って。────その後は、憶えていません」
気付いたら、ここにいたんです。貴方のことは、どうしてかすぐに分かって。
有り得ないような、でも実際に起きてしまっている状況。その中で語られた、紛れもない真実。