お月見泥棒
無月
「よし、行くか」

 草むらから大きな家の縁側に置かれたお供え物を見ていた伸太(しんた)が立ち上がった。

「庄屋さんの家だよ。止めておいたほうがいいんじゃない?」

 後ろで融(とおる)が、おずおずと言う。
 庄屋は裕福なだけに、お供え物も立派だ。
 普段口に出来ないものがたんと供えてあり、まだ幼い子供となれば我慢できるものではないが。

「いくらお月見泥棒っても、今まで庄屋さんのは誰も盗ってないし」

 豪華すぎて、返って気後れしてしまうのだ。

「あれは盗っていいものなんだ! 他の家のなんて、別に珍しくもないだろ」

「そうだよ。俺、あの餡団子欲しい」

 先の家で盗って来た蒸かし芋を頬張りながら、喜助(きすけ)が言う。

「大丈夫だって。村中の行事なんだから」

 伸太に言われ、融も後に続いた。
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