オーロラの歌



水温の冷たさが、身体の芯まで伝わってきた。


背を向けたせっちゃんが、遠ざかっていく。


待って、待って。


待ってよ!


手を伸ばしても、水中に棲む悪魔が私を下へ下へと引きずる。


泳げない私は、抗うこともできず。


緩やかにこみ上げる苦しみに、すがっていた。


息を止めていたが、さすがに永遠には無理で。


ひとつ、またひとつ、泡が上っていく。



揺らぐ水面には、もう影はなくて。


水を吸った制服が、鉛のようだ。


ひと粒の涙が、こぼれる。



なんでいつも、私はこうなんだろう。


立ち向かう勇気は在ったのに、焦ってうまく闘えなくて、あっけなく水の中に落とされてしまった。


強いとか弱いとか、そういう問題じゃない。


ダメだなぁ、私……。



朦朧としてきた意識で、伸ばしたままの手に、何かが触れたのを感じ取った。


透明な水に溺れそうな私に、窓から一筋の光が差し込んでいた。



< 748 / 888 >

この作品をシェア

pagetop