空の下の笑顔の樹
       ふふふん♪
 
 駄菓子屋さんがオープンする日を楽しみにしながら、変わりない日常生活を送っているうちに、待ちに待った土曜日がやって来た。
「真奈美、早く家に帰ろうよ」
「うん! 走って家に帰ろう!」
 駄菓子屋さんの開店時間は、午後の一時とのことなので、学校の授業が終わってから、真奈美と一緒に走って家に帰り、お昼ご飯の味噌ラーメンを、大急ぎでお腹の中に詰め込んだ。
「天気が良くて良かったわね。それじゃあ、そろそろ行きましょうか」
 チェック柄のワンピースを着て、普段よりオシャレをしているお母さん。
「駄菓子屋に行くなんて、二十五年振りくらいだから、すごくわくわくしてきたぞ」
 普段着だけど、少年のように目を輝かせているお父さん。
「駄菓子屋さーん! すぐに行くから待っててね!」
 ベランダで叫んでる真奈美。この日は、お父さんもお母さんも真奈美もいつになくテンションが高い様子で、お父さんがドアを開けた瞬間に、真奈美がもの凄い勢いで飛び出していった。
「真奈美! 待ちなさい!」
 あたしも負けじと、フルスピードでマンションの階段を駆け降りていき、エレベーターに乗って降りてきたお父さんとお母さんと合流した。
「嬉しい気持ちはわかるんだが、駄菓子屋は逃げたりしないから、そんなに焦らなくても大丈夫だぞ」
「お父さんの言うとおりよ。美咲も真奈美も、もう少し落ち着いて行動しなさいね」
「はーい」
 お父さんとお母さんに注意されてしまったので、あたしも真奈美もゆっくりと歩いていき、開店時間の十五分前に、駄菓子屋さんの前に到着した。
「いろんな人が集まってるわね」
「子供は駄菓子屋が珍しくて、大人は懐かしいんだろう」
 オープン間近の駄菓子屋さんの周りには、小さな子供からお年寄りの方まで、いろんな人たちが集まっていて、あたしと真奈美の友達も来ていた。満員御礼、満員御礼、ちょー満員御礼。とにかく人が多すぎて、駄菓子屋さんの様子がよく見えない。
「お店の中に入ってみないとわからないけど、私たちが通っていた頃の駄菓子屋さんと雰囲気が似てるわね」
「そうだな。どこの駄菓子屋も、だいたいあんな感じだったからな」
 お母さんとお父さんの会話に聞き耳を立てながら、おもいっきり背伸びをして、駄菓子屋さんの様子を伺ってみた。あたしの目に真っ先に飛び込んできたものは、みんなの駄菓子屋と書かれている大きな看板。お店の前に開店祝いの大きなお花と座り心地の良さそうなベンチが置かれていて、お店の壁の色は明るいクリーム色。みんなの駄菓子屋さんの外見は、あたしのイメージとは違っていたけど、あのお店の中に、いろんなお菓子やおもちゃが並べられていると思うと、想像しただけでわくわくしてくる。
「ねえねえ、お姉ちゃん。駄菓子屋さんは見えた?」
 真奈美があたしの服を引っ張りながら聞いてきた。
「ちょっとだけ見えたよ」
「お父さんもお母さんもお姉ちゃんも、背が高くていいなあ」
 背が高いのを羨ましがっている真奈美の身長は、百三十五センチ。あたしの身長は、百五十二センチ。十七センチ差はかなり大きい。
「真奈美もそのうち背が高くなるよ」
 つま先が痛いのを我慢して、背伸びをしたままの状態で待っていたところ、駄菓子屋さんの人と思われるおじさんとおばさんが、お店の中から出てきた。
「いらっしゃいませ。本日は、大変多くのお客様にご来店いただきまして、心より感謝申し上げます。私どもの駄菓子屋の名前は、庇の上の看板に書かれているとおり、みんなの駄菓子屋です。一人でも多くの方々に昔ながらの駄菓子やおもちゃをご堪能いただけたらと思っております。本日から、妻とともに頑張って参りますので、みんなの駄菓子屋を、どうぞよろしくお願い致します」
 みんなの駄菓子屋さんのおじさんの挨拶が終わったと同時に、大勢のお客さんから盛大な拍手が沸き起こり、あたしもおもいっきり手を叩いて拍手を送った。満員御礼、満員御礼、ちょー満員御礼。ぱちぱちぱちぱちぱちぱち!
「ずいぶん若い夫婦が経営してるのね。ちょっと意外だったわ」
「駄菓子屋の店主といえば、おじいさんとおばあさんのイメージが強いからな」
 笑顔で拍手に応えているみんなの駄菓子屋さんのおじさんとおばさんは、あたしと真奈美のお父さんとお母さんより年下に見える。
「盛大な拍手をありがとうございました。それでは只今より開店致します。本日は、大変混み合っておりますので、お客様は二列に並んでいただいて、先頭のお客様から順番にご入店ください」
 みんなの駄菓子屋のおじさんに言われたとおり、あたしは真奈美と一緒に並んだ。列からはみ出して、お店の前に並んでいる人の人数を数えてみたところ、青山家の順番は、前から数えて、ニ十番目くらい。
「もうすぐだね!」
「うん! 駄菓子屋さんに入るのは初めてだから! すごくドキドキしてきたよ!」
 大興奮状態の真奈美と、お店の中を覗き込みながら待っていたところ、青山家の順番が回ってきた。
「いらっしゃい。このカゴを使ってね」
 真新しい店内に足を踏み入れた瞬間に、みんなの駄菓子屋さんのおばさんが、あたしと真奈美に三十センチくらいの大きさの箱を手渡してくれた。
「いろんなお菓子とおもちゃがあるね!」
「うん! すっごいいっぱいあるね!」
 みんなの駄菓子屋さんの店内はこじんまりとしていて、あたしと真奈美がいつも通っているコンビニの十分の一くらいの広さしかない。でも、コンビニには置かれていないお菓子や、あたしが見たこともないようなおもちゃがいっぱい並べられている。
「こないだ話したとおりだろ。よし、今日は大盤振る舞いだ。美咲も真奈美も好きな駄菓子とおもちゃを好きなだけ買いなさい」
「私も買いまくっちゃうわよ」
 あたしと真奈美の後に続いて入店したお父さんとお母さんも興奮しているようだ。
「こんにちは。どうも初めまして。私は、この町内で暮らしている青山と申します。今日は家族全員で買いに来ました。この時代に駄菓子屋を始められるなんて、本当にすごいと思います」
「ご丁寧なご挨拶をありがとうございます。私は、今年の三月まで、電気メーカーに勤めていたのですが、思い切って脱サラをしまして、長年の夢だった駄菓子屋を始めてみたんです」
「そうだったんですか。長年の夢が叶って良かったですね。家の近所に駄菓子屋がオープンして、本当に嬉しい限りです。私たち家族も応援していきますので、頑張って続けてくださいね」
「はい。出来る限り続けていこうと思っておりますので、今後とも、みんなの駄菓子をよろしくお願い致します」
 お父さんとみんなの駄菓子屋さんのおじさんが話し込んでいるうちに、珍しい駄菓子とおもちゃを、カゴがいっぱいになるまで詰め込んでみた。真奈美のカゴもてんこ盛り。
「お会計は、ご一緒でよろしいですか?」
 レジの担当は、おばさんのようだ。
「はい。一緒でお願いします」
 青山家の財布の紐を握っているのは、お母さん。真奈美と一緒にはしゃいでいるお父さんは、たまに寿司を握ってくれる。
「青山さんご一家のお会計は、二千八百三十円になります」
 これだけ買っても、二千八百三十円。コンビニやスーパーで同じ量を買ったら、三倍以上の金額になると思う。みんなの駄菓子屋さんの安さにびっくり仰天だ。
「本当に安いですね」
 あたしが驚いている間に、お母さんがお会計を済ませていて、みんなの駄菓子屋さんのおばさんが、駄菓子とおもちゃの入った袋を真奈美に手渡していた。
「本日は、みんなの駄菓子屋にご来店いただきまして、ありがとうございました。またのご来店を心よりお待ちしております」
 みんなの駄菓子屋さんのおじさんとおばさんは、青山家の一人一人と握手を交わしてくれて、笑顔で見送ってくれた。
「みんなの駄菓子屋さんのおじさん! おばさん! また来るからね!」
「あたしもまた来ます!」
 真奈美もあたしも笑顔で手を振ってお店から出た。みんなの駄菓子屋さんの店内に居たのは、十分くらいだったと思うけど、いろんな駄菓子とおもちゃを買うことが出来たし、駄菓子屋さんというお店がどんな感じのお店なのかわかったので、十分すぎるほど満足だった。
「真奈美! あたしにも袋を持たせてよ!」
「やだよう。うちが持つよう」
「こらこら、二人とも。そんなに袋を引っ張り合ったら、袋が破けてしまって、駄菓子とおもちゃが地面に落ちてしまうぞ。二人で一緒に持ちなさい」
「今すぐ食べてみたいけど、食べながら歩くのはお行儀が悪いから、家に帰ってから、ゆっくりと味わいながら食べましょうか」
「はーい」
 お父さんとお母さんに言われたことを素直に聞いて、いろんな種類の駄菓子とおもちゃが入っている袋を、真奈美と一緒に持ちながら歩いて家に帰った。
「紅茶を淹れるから、ちょっと待っててね」
 お母さんが紅茶を淹れている間に、お父さんとあたしと真奈美とで、みんなの駄菓子屋さんで買ってきた駄菓子とおもちゃをテーブルに並べた。
 
 ぼーぼー太郎 ぼーぼー太郎 ぼーぼー太郎 ぼーぼー太郎 ぼーぼー太郎 
 もちもち太郎 もちもち太郎 もちもち太郎 もちもち太郎 もちもち太郎 
 つぶつぶ太郎 つぶつぶ太郎 つぶつぶ太郎 つぶつぶ太郎 つぶつぶ太郎
 チョコっと太郎 チョコっと太郎 チョコっと太郎 チョコっと太郎 チョコっと太郎
 どんとこ太郎 どんとこ太郎 どんとこ太郎 どんとこ太郎 
 もろこしさん太郎 もろこしさん太郎 もろこしさん太郎 もろこしさん太郎
 にっこりさん太郎 にっこりさん太郎 にっこりさん太郎 にっこりさん太郎
 じゃが太郎 じゃが太郎 じゃが太郎 じゃが太郎 じゃが太郎 
 甘辛いか太郎 甘辛いか太郎 甘辛いか太郎 甘辛いか太郎 
 たこ焼き屋さん太郎 たこ焼き屋さん太郎 たこ焼き屋さん太郎 たこ焼き屋さん太郎
 うめうめさん太郎 うめうめさん太郎 うめうめさん太郎 うめうめさん太郎
 あんずずず太郎 あんずずず太郎 あんずずず太郎 あんずずず太郎 
 ベーゴマ ベーゴマ ベーゴマ ベーゴマ 
 銀玉鉄砲 シャボン玉 ゴム風船 紙風船 おはじき けん玉 ヨーヨー 
 観光バス 観光バス





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