LALALA
毎朝理容店の前の歩道を、街路樹からポストまで欠かさず掃除しているこの人は、理容店の店主、芝崎さんだ。推定年齢45歳。いや、もっと上かな?

口笛、という理容店。
鼻歌の方が合ってると思うけど。
アパートが【コーポ・ホイッスル】というので、もしかしたら芝崎さんはそこから取ったのかもしれないなぁ。


「おはようございます、芝崎さん」
「季里ちゃん、今朝は朝からご出勤?」
「あ、はい、そうです」


芝崎さんは目を見開いて、首を傾げた。
アパートに繋がる階段は理容店の脇にあるから、アパートの住人が出入りしている様子を自然と目にしているのだろう。
私が普段在宅で仕事をしていることに芝崎さんが勘づいているのは、無理もなかった。


「あれ、博史くんは?会社もう行ったの?」
「あ、ええと…」
「出張かなんか?最近多いね」


釣られて微笑みながら、私は曖昧に頷いた。
乱れた横髪を耳に掛けようとして、タッセルに絡まる。「あ、じゃあ」私はピアスを気にしながら、軽くお辞儀をした。「うん、いってらっしゃい」芝崎さんは口の脇に笑窪を刻んで、にっこりと笑った。

晴天の太陽より、そんなオジサンの笑顔の方が眩しく感じる、って…。
私、自分が思ってる以上に疲れてるのかもしれない。


『出張かなんか?最近多いね』


そろそろ、限界が近づいている。
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