白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように
 朝から日の光は元気に輝いている。

 午前7時、目覚ましのアラームが鳴り眠い眼を擦りながらベッドから起き上がる。

 サーバーにコーヒーの粉を入れ、ミネラルウオーターをセットする。冷蔵庫を漁(あさ)り、卵とハムを温めたフライパンで焼く。そしてトースターに食パンを2枚入れスイッチを入れる。

 再び冷蔵庫を開け、バイト先から貰って来たサラダ用の生野菜を皿に盛り、買い置きのドレッシングを少しかけ入れテーブルに置く。

 チン、とトースターが合図を上げ、それと同時にコーヒーの甘く香ばしい香りが立ち込める。

 ケトルを火にかけ湯を沸かす。戸棚からインスタントの味噌汁を取り、お椀に入れ沸いたお湯を注ぐ。

 一人暮らしの朝食にしては立派な食事だと思う。かかった時間はおよそ15分。毎日の事だから随分と手慣れたものだ。なにせ、一人暮らしを始めてから、もう3年近くになるんだから。

 そしてこの朝食に似合わないのが、味噌汁だ。

 物覚えが付いた時、朝食には必ず味噌汁が出ていた。

 お袋がそうしていた。

 「朝、味噌汁を啜らないと一日は始まりません」

 それがお袋の口癖だった。

 そして一人暮らしをしてからも、お袋は毎月必ず一ヶ月分のインスタント味噌汁を送りつけてくる。

 でも、僕はそれについては、あんまり苦には感じていない。そう言う僕自身も、朝味噌汁を啜らないと元気が出ないような気がするから。

 それともう一つ、お袋は良くこんなことも言っている。

 「将来、結婚するなら美味しい味噌汁が作れる人にしなさい」と。
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