白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように
 実際に世に出す作品を執筆し、体感したからこそ言える事だと感じた。

だが僕はまだ、彼女の足元にも及ばない作家志願者だ。彼女の話は遥か遠いことの様に思えた。

 ふと、誰かの視線を感じる。

 その視線の先に目をやると、部長の有田優子がニコッと微笑んだ。

 とっさに目を逸らした。その後、僕はただ資料を眺める事しか出来なかった。

 それから間もなくミーティングは終わった。

 バイトに向かう途中、電車の中で沙織さんからのメッセージに気が付いた。

 「今村沙織***今日は、学部にまで来て頂いたのに、休んでしまってごめんなさい。

さっきナッキから連絡ありました。それと彼女の事、許してあげてください。

彼女も私の事、心配しての事だと思います。普段はとてもいい子なんです。私の唯一の親友ですから」


 僕はすぐに返信をした。


 「僕は大丈夫ですよ。彼女も最後は解ってくれたようですし。

それより、沙織さんの具合どうですか」

 送信してから僕はある事に気が付いた。彼女を彼女の名前で送った事に。

 昨日、彼女と初めて出会ったばかりなのに、名前で表記した事に「しまった」と思った。馴れ馴れしい男だと思ったに違いない。

 謝罪文を送ろうとした時、彼女からまたメッセージが届いた。 

 「今村沙織***ご心配頂きありがとうございます。大分よくなりました。

明日は大学行けると思います。

それと、私の事名前で呼んで頂いているんですね。

嬉しいです。同い年の男性の方から名前で呼ばれるの、久しぶりだから少し恥ずかしいけど。

私も、達哉さんとお呼びしても大丈夫ですか」 
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