白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように
 僕はふっと肩を落とした。彼女の文面からは嫌な雰囲気は感じられなかったから。

 それでも一言付け加えて


 「済みません。いきなり名前でお呼びするなんて失礼な事をして。僕の方は全然大丈夫です。達哉さんでも、達哉でも好きなように呼んでください」


 「今村沙織***ふふふ、そんなに気に為さらないでください。それにナッキから既に、達哉さんが私を名前で呼んでいたのを訊いていましたから」


 それを知って僕はまた「しまった」と思ったが、後の祭りだった。

 降りる駅が近づいてきた。


 「色んな意味を込めて、ありがとうございます。もう、バイトの時間なのでこれで失礼します」


 電車のドアが開き改札に向かう途中

 「今村沙織***アルバイトなさってるんですね。お仕事頑張ってください」


 彼女の「お仕事頑張ってください」の一言でまた顔が綻んでしまう。


 僕はじんわりと、胸の中が熱くなるのを感じながらバイト先へ向かった。
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