VS IV Omnibus2 パペット


 この船には、お客を乗せていた。

 いや、船そのものも向こうの持ち物なのだから、アルバはただのお抱え操縦士というべきか。

「そんなに…食うのか?」

 ようやく、宙港の管制を離れ、船の操縦が落ち着いた頃。

 片手をパネルから離して、アルバはパイをひっつかんだ。

 うかうかしてると、自分用までなくなってしまいそうな気がした。

 一瞬、間が空いて。

「…もう、全部食べ終わってるかも」

 にこっ。

 チナは、眼鏡の向こうの目を細めた。

 作り甲斐があって、どうにもご機嫌のようだ。

 チナは、シェフだった。

 腕はよかったが、メンタルな部分で仕事を続けられなくなり、当時恋人だった運び屋のアルバを手伝い始めたのだ。

 そして、アルバは――メシのうまい運び屋、なる肩書きを手に入れたのである。

 そんな彼に、仕事の依頼が来た。

 最初から、二人セットでの依頼だった。

 風変わりで、破格で――危険な依頼。

 残念ながらアルバは、その三つが大好物だったのだ。

 妻がいるのに、危険な仕事なんて。

 人は、そう非難するかもしれない。

 だが、アルバの考え方は逆だった。

 死ぬなら、絶対一緒に死んでやる!

 だから、二人セットの仕事なら、どんな危険な仕事でも、逆に本望だったのだ。

 ダメなエゴイストなのは、百も承知。

 だが、誰よりも幸せなつもりだった。

「…ありゃ、ヤバそうだな」

 そんな、エゴ男のアルバは、お客について感想を口にした。

 彼らが出港した港は、軍用だったのだ。

 軍港を使用できる民間人など、聞いたこともない。

 しかも、最優先扱いだ。

 物資の搬入も、出港も、どれもVIP待遇と言っていい。

 そんな船に、乗り込んできたのは、一人。

 いや、一人──だった。
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