フォーチュン
『まあアンジェリーク!その服装は、皇女らしさはおろか、レディの素養が少しも垣間見えませんよ』
と言っている、母であり、バルドー国女帝・ヴィヴィアーヌの小言と、隣で少ししかめた父・アントーノフの顔が、一瞬鮮明に脳裏に浮かんだアンジェリークは、思わずクスッと笑ってしまった。
しかし鏡に映ったその顔は、とても寂しそうだ。

もうみんなに会えないと思うと、とても寂しい。
それでも私は、もう王宮へ戻るつもりはありません。
母様、父様。親不孝でワガママな私の行動を、どうかお許しください。

アンジェリークは、寂しさに呑まれないよう、自分を奮い立たせるように、鏡に向かって「ニッコリ」した顔になるまで微笑んだ。

・・・もう一押しするために、変装用眼鏡を買ったほうが良いかしら。
でも、ここで余計な時間とお金を費やすべきではないわね。
外見を旅仕様に整えた次は・・・情報収集をしなくては。

着ていた服と履いていた靴は、とりあえず持っていたボストンバッグへ直しておいた。
服も靴も良質のものだから、いざというとき換金できるかもしれないとアンジェリークは考えていた。

アンジェリークは小国の皇女で、王族は金持ちの部類に入る。
しかし一般の家庭同様、必要以上な贅沢をしないという環境で育てられた。
「堅実に、簡素に」お金を使うという暮らしの方針に、身分の差はないのだ。
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