フォーチュン
気が高揚しているからなのか、アンジェリークはさほどおなかがすいていなかったので、カフェでレモン水を頼んだ。
その後は、街の露店でファーロという小さな揚げパンをひとつ買った。
空腹だと思ってはいなかったものの、漂ってくる甘い香りに、つい誘われてしまったのだ。
揚げたての温かなファーロを一口頬張ったアンジェリークは、「おいしい」とつぶやいた。

私、実はおなかがすいていたのかしら。

「そりゃそーよ。揚げたてだし。それに今日は、我がビシュー産の一番粉を惜しみなく使ってるからね」

バルドー国は観光名所があるような都市はないが、商人や旅人が頻繁に行き交う、陸続きの隣国への通路として栄えている。
そのためか、中央市場の露店も、地元のバルドーの民だけではなく、近隣諸国の人々が出している店も多い。
ファーロを売っているこの露店者も、「我がビシュー」と言ったことから、バルドーの民ではないということが、アンジェリークにも分かった。
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