フォーチュン
「これは・・・マダム・ナタリアの“使い”か。夜明け前にご苦労だったな」

ユーリスは窓を開けると、ガラスをノックするようにつついていた鷲(わし)の足に結ばれている紙を、大きな手で器用に外した。
すると、「任務」を終えた鷲は、優雅に大空へ羽ばたいて行った。

薄暗い部屋に蝋燭を一本灯したユーリスは、マダム・ナタリアからの「手紙」をそっと開くと、蝋燭の灯りでそれを読む。

『北の娼館。M(マダム)・ルッソ』

短い文面を読んだユーリスは、形良い唇の片方をニヤリと上げると、その紙を左手でぐしゃっと握った。
そして、蝋燭にその紙を投げ入れると、たちまち紙は不恰好に丸まりながら、銀(シルバー)の皿状の燭台に灰と化していく。

その間ユーリスは、出かける身支度を速やかに行った。

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