フォーチュン
「わっ・・」
「驚かせてすまない」
「音も気配もなくここまで近づいていたら、そりゃ驚きますよ、王子」とたしなめるマチルダのことを、ユーリスは完全無視していた。

というより、マチルダの存在を、ユーリスは忘れていたのかもしれない。
ユーリスはただ、アンジェリークだけをじっと見つめていた。
そしてアンジェリークも、ユーリスの美麗な顔に視線が釘づけだった。

ユーリスが一歩前に出て、距離を縮めた。
と思ったら、アンジェリークの頬から赤い髪を、大きな手でそっとなでると、アンジェリークの顔を上向かせ、キスをした。

「ん・・・!」

これは・・・このキスは・・・まぎれもなく「コンラッド」で。
だから「コンラッド」がユーリス王子で、昨夜のことだって・・・。
本当に起こった現実のこと・・・。

ユーリスの唇を味わいながら、頭の中はぐちゃぐちゃな思考で渦巻いていたアンジェリークは、ユーリスの唇が名残惜しく唇から離れたとき、思わず不満の声を上げてしまった。
それに満足するように、ユーリスはフッと微笑む。

アンジェリークは、顔を真っ赤にしながら、「ゆ、ユーリス様っ!」と言うのが精一杯だった。
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