フォーチュン
「おまえがキスをしてくれとせがむ唇をしているから、俺はそれに応えただけだ」

しゃあしゃあと言いのけるユーリスに、マチルダは呆れ声で「王子」とたしなめる。
そして、わざとらしくため息をついたマチルダをチラッと見た。

「マチルダはもう下がって良い」
「その前に。ラウンジチェアの布は、新しいのに張り替えるよう、手配致しました。血痕と体液は、拭いても落ちませんからね」
「ああ」
「同じ色のビロード地でよろしゅうございましたか?」
「構わん」

昨夜のことを思い出させるような会話を淡々としている二人を、アンジェリークは恥ずかしがって聞かざるを得なかった。

「最後に」
「なんだ」
「王子、あんまりがっつかないように。レディには優しく、ですよ」
「・・・さっき母上からもそう助言されたばかりだ」

苦笑を浮かべるユーリスに、「あらあら。それじゃあワタクシはこれで。アンジェリーク様、また明日」とマチルダは言うと、サッと一礼して部屋から出て行った。

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