アイ・ラブ・ユーの先で


小学校に上がってはじめての冬、たぶん年明けすぐくらいだったと思う。インフルエンザを見事こじらせて、大学病院に入院したことがあった。

忙しい家族にかわり、献身的に看病してくれたお医者さんや看護師さんたちのおかげでみるみる回復し、体はあっというまに元気になった。


それでも、白い病室に、家族はいつも、誰も不在。

小児科に入院しているほとんどの子たちの傍には、お母さんやお父さんが常にいるのに。きょうだいが来てくれている子もいるのに。


そんな周りの様子を見ていたくないと思ったのか、寂しさをまぎらわしたいと思ったのか、どちらの気持ちが先行していたのかは、定かでない。


こっそり病室を抜け出したとき、わたしはなにを思っていたのだろう。

ワクワクしていたかもしれない。ドキドキしていたかもしれない。それとも、まったく別の感情を抱いていたかもしれない。

それでも、7歳のわたしにとって、かなりの大冒険だったことには違いない。


病衣のまま、どさくさにまぎれてエレベーターに乗りこみ、大人たちのあとをてきとうについて歩いた。

意味のわからない場所に出て、怖くて泣いてしまい、迷子扱いされることもあった。
そういうときは病室に連れ戻されるので、またイチから再スタート。


そうしてやっとの思いでたどり着いた、最初の明るい場所が、病院の2階に位置する売店だった。

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