アイ・ラブ・ユーの先で


「食え、そして飲め。おっさんはどけ」


すべての動詞を命令形に変えてしゃべった先輩が、テーブルの上にプリンを置くなり、さも当然かのごとくわたしの目の前に腰かける。

だけどいまはそんなことよりも、わたしは目下(もっか)の黄色いお菓子にくぎづけだった。


「あの、プリン……すごい、好きで」


これは社交辞令でもなんでもなく。本当に、世界でいちばん好きな食べものが、プリンなのである。
物心ついたときにはすでにもう大好物だったので、たぶん生まれる前からそうだったんだと思う。


「へえ、そりゃよかった」


先輩が満足そうに笑った。

その斜め上で、お父さんも、うれしそうに微笑んだ。


「うちのプリンは本当にこだわって作ってるんだよ。だから毎日限定30個なんだけど、きょうの分はまだ残ってたからよかった」

「ええ、そうなんですか! 本当においしそう、すごい、そんなの聞いたらどきどきします」

「お口に合うといいんだけどね」


胸の高鳴りをなるだけ抑えながら、スプーンで最初のひと口分だけをすくう。
もう、その感触だけで、おいしいことを確信する。


「……っ、おいしい、なにこれ、ほんっとうに、おいしいです、すごい」


口に含んだらあんまりおいしすぎて、逆に「おいしい」と「すごい」しか言えない。わたしはグルメリポーターには絶対になれないな。

それでもお父さんはまたうれしそうに笑い、「ゆっくり味わってね」と言い残すと、カウンターに戻っていったのだった。

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