アイ・ラブ・ユーの先で


「ねえ佳月、見るからに荒れてますって感じでもない人のほうがけっこうヤバイのかもよ。あの人、ほんと裏でなにしてるかわかんないよ。水崎先輩だけはやめたほうがいいと思う。佳月が変なことに巻きこまれたら、ウチ、いやだよ」


それは、ちゃんと、なにか明確な根拠のある話なの?

だってぜんぜん、そんなふうには見えなかった。
どこからどう見ても“やばい”人ではなかった。

むしろ、どちらかというと、わたしにとってはかなり、いい人だったように思う。


たしかにちょっと無遠慮で、強引で、傲慢で、いじわるなところはあるけれど。

でも、ぜんぜん、なにか世間に後ろめたいことをしているようには、見えなかった。


でも、でも、でも――否定の接続詞が幾重にもかさなって、絡まって、だんだん、どれがたしかな事実なのかわからなくなっていく。


「ねえ、下手に関わらないほうがいいよ、ぜったい」


つきあっている疑惑を否定するとか、しないとか、もはやそういう次元の話ではなくなってしまった。


きっと簡単には火消しができないほどに蔓延ってしまっている噂話。
そして、きのう、わたしがこの目で見たすべて。

いったいどちらが真実なのか、本当のことを知りたい。


それは、先輩自身のことをもっと知ってみたいという気持ちと、たぶん、ほとんど同義だった。


< 66 / 325 >

この作品をシェア

pagetop