漂う嫌悪、彷徨う感情。
「美紗ちゃん、何かあったでしょ?? 真琴のお兄さんに会っちゃった?? 世間一般的にはさ、逃げずに立ち向かう人間を良しとする傾向があるけどさ、逃げるのだって有りだと思うよ、オレは。 立ち向かう事くらい一生懸命逃げてる場合だってあると思うからさ。 オレ、全然砦になれるよ。 美紗ちゃんくらい、全然守れるよ」
未だ起き上がれず蹲ったままの日下さんが、なかなか恰好の良い事を口にするから、
「・・・ふっ」
ちょっとキュンとしつつも笑ってしまう。 でもやはり、自分の事を『守る』と言ってくれる男性には、心ときめく。
「今、いい事言ったのにー」
ようやく目を開けた日下さんが、ほっぺたを膨らませながらワタシの方を見た。
「日下さん、砦にはもうなってるじゃないですか。 ワタシは砦に逃げ込んで、今温泉にいるんですよ」
「・・・そっか。 いつでも気兼ねなく逃げておいでよ」
日下さんは、ほっぺに溜めていた空気を『ふふッ』と笑いながら吐くと、ワタシの頭を撫で撫でした。