漂う嫌悪、彷徨う感情。
決められた席に腰を掛けると、
「しっかし、佐藤さんの嘘、下手くそすぎでしたね。 でも、ビックリするほどの大根演技だったけど、みんなを黙らす上手い嘘を考え付いたものですよね。 あんな風に言われたら、みんなも嘘だと気付いてたのに、突っ込み辛いですもんね。 だいたい、美紗の嘘の浮気のでっち上げと、ワタシが佐藤さんを慰めたの、順序が逆だし。 それを指摘して突っ込んだら突っ込んだで、ワタシが『弱ってた佐藤さんにつけ込んだくせに玉砕した恥ずかしい人』になってしまうから、誰もそんな事出来ないし。 みんな優しいから。 なんか、みんなに気を遣わせちゃって申し訳ない」
小田さんがバスチケットの半券を眺めながら、自虐的に乾いた笑いを漏らした。
「みんな、小田さんの事好きだから、誰もそんな風に思わないって。
でも、あの佐藤の棒読みは酷かったよね。 聞かされてる方がしんどかったわ。
このチケットだって、『前々から計画してました』風に言ってたくせに、取ったの先週の土曜日だもんな。 どうせ妹に頼んだんだろ」
バスチケットには購入日が印字されていた事に、おそらく小田さんも気付いていただろう。
「・・・苺狩り、付き合わせてしまってすみません」
眉毛を八の字にして困った様に笑う小田さん。
「全然。 だから、楽しみにしてたんだって!! それに、苺狩りを計画したのは小田さんじゃなくて、佐藤たちだし」
そんな小田さんに顔を左右に振って否定する。