漂う嫌悪、彷徨う感情。

・・・もうバラしてしまおうか。 美紗が悪者になっている事が耐えられない。 オレはどんな冷たい視線に晒されても構わない。 だけど、それをしてしまうと美紗が自らの意思でカミングアウトしたわけでもない、美紗がいじめを受けていたという、他人に知らせる必要のない過去を露呈しなければいけない。

いじめられっ子は悪くない。 でも、どうしても『可哀想な子』という印象が付いてしまう。

今の美紗は違うのに、美紗を『昔いじめられっ子だった可哀想な人』にしたくない。

今まで美紗が過去の事を一切話さなかったのは、思い出したくなかったという事だけでなく、美紗が言っていた通り、プライドを守りたい気持ちもあったからだろう。

美紗の心を傷つけず、嘘を訂正する方法はないのだろうか。

「普通に仕事の話だよ。 異動なんかしないし、美紗もどこにも行かない。 美紗は何も悪くないから」

今すぐに解決策など見つかるわけもなく、それでも美紗への誤解を解きたくて、説明の出来ない解答を口にした。
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