漂う嫌悪、彷徨う感情。

「美紗ちゃん、彼氏と会社で出会ったって言ってたっしょ。 前に真琴が『和馬の会社、お兄ちゃんの職場の近くなんだー』って社名言ってて、たまたま覚えてたんだよね。 で、美紗ちゃんの様子を見にきてみたら、こんな事に・・・」

日下さんの意地悪な視線が刺さる。

「本当に申し訳ないです」

頭を下げるという謝罪を口実に、突き刺さる視線を回避する。

「なーんか、大々的に大嘘吐いてるんだってね、美紗ちゃん。 今のところバレてないらしいじゃん。 女優だねー」

視線を合わせようとしないワタシの肩を、日下さんが人差指でツンツンと突いた。

「容姿的に女優は無理です。 ワタシはただのペテン師です。 ・・・全員纏めて騙せるなら良かったんですけどね。 1人・・・佐藤さんだけがワタシの嘘を知ってるから大変。 佐藤さんが変に動いてワタシの嘘を覆したりしないかヒヤヒヤしてます」

肩にボタンでもあったのだろうか。 日下さんの指に押されて、スイッチが入ったのか切れたのか、ふいに本音が零れた。

会社ではずっと気を張っていた。

会社の人間ではない、ワタシの事情を知っている日下さんと、何となく話をしたくなった。
< 92 / 312 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop