素直の向こうがわ


「どれ」


河野が少し身体を寄せて、私の問題集に目を落とす。

視線が合うだけでこんなにも心が騒ぎ出す。
ドキドキと高鳴って仕方がない。こんな苦しさ味わったことない。


「一文がかなり長いから、まずここで区切って」


河野がシャーペンを持った手をこちらに寄せる。それが、机の上に置いていた私の手に少しだけ触れた。

ただそれだけで、そこから一瞬にして緊張が駆け巡る。

このコントロールの全く効かない自分の心が恐ろしくなる。

すぐ近くで聞こえる、少し抑えめの河野の声。


「後ろへ後ろへって修飾されてるから、まずこの文の根幹を把握すること」

「うん」


身体全体が心臓になってしまったのではないかと思うほどに、ドキドキで溢れている。

好きって気持ちで、一杯になる。


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