意地悪な片思い

仕事と電話と、コチョと


 パリっと音を立てて、私はのりを食いちぎった。その反動で、のりの細かなカスが1、2個 自分の広げているノートに転がる。

それでも私は気にせず持っているペンを走らせた。

休憩だっていうのに、文字通り大人しくしておけるほど余裕はない。私はもくもくと資料のページをめくっていく。

「市田、大丈夫か?
分からないことあったら…」
背にかかってきた声。

「とりあえず今は何とか。
いくつかお尋ねしたいことできたら、後でまとめて質問させていただきます。」
 振り返って、声をかけてきて下さった長嶋さんに、余裕のない声で私は返事する。

無理すんなよ。と言う彼も、慌ただし気な様子で自席へ戻っていった。


 年末休みが明け、1週間がたった今もどこか社内は騒がしい雰囲気。新たな一年が始まったばかりなこともすっかり忘れたとばかりに、忙しなく皆動き回っている。

当然私もその中の一人だ。
一番のその理由は、

「市田さん、清水会社さんからお電話よ。」

「品川さんありがとうございます。」

あの仕事を引き受けたから。


 休みが明け、長嶋さんに返事しに行った時のことを私はよく覚えている。

脳内にフラッシュバックさせると、決まって彼が「協力するからな。」と優しく微笑んでくださった光景が同時に浮かんでくるんだ。

がんばれ、じゃなくて協力って単語を出してくださったことが、何よりもうれしかったんだよね。

長嶋さんが私のことを気にかけてくれていることを改めて感じれたから気丈夫だし、ちょっとだけ肩の荷も下りた気がしたし、救われた気もした。

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