意地悪な片思い

 飲み会から帰宅すると、一通連絡が届いていた。

『早速連絡してみました、雨宮です。
本当お疲れさまでした。

今度また飲みに行きましょうね。』

 終わり間際、彼に連絡先を聞かれて交換したんだっけ。ぼーっと帰ってるうちにすっかり私は忘れてた。
それぐらい、今の私の頭ん中を独占してんのは、違う人のことだったから。


『お疲れ様です。
その際はお手柔らかにお願いしますね。
ゆっくり休んでください、おやすみなさい』
 早々に返信して、私は違う人の連絡先を開く。でもすぐに閉じた。

ちゃんと直接会ってお礼言いたいって思ったから。

携帯を持ったまま、私はベッドに転がる。
飲み会の匂いが染みついてそうだってのに。

そういえば、今日着てる、このシンプルな黒いモモンガのトップスは…あの日と同じ服だったっけ。

抱きしめられたときと同じ。


当たり前ながら匂ったって彼の香りがするはずない。
あの時感じた彼の体温が感じられるはずない。

でも、だけど、なのに、
このままこの服を着て、寝てしまいたいって思うのはなぜなんだろう。
あの瞬間のことを思い出してしまうのはなぜなんだろう。

すんと私は匂った。
飲み会で香ってた空気と同じようなにおいが服からした。

あーあ、ばかだな私。
直接お礼いいたいなんて言い訳だよ。


それって単に会いたいってことじゃんか。

< 177 / 304 >

この作品をシェア

pagetop