意地悪な片思い
階段を昇り終えるとすぐに帰り支度を済ませ、今度は階段を急いで降りて速水さんのところへ移動する。
待っていただいているとはいえ、小走り程度で十分だとは思うのだが、元陸上部ということも関係しているのか内川くんは全力で駆けたがる。
降りながら、今日一番体力と神経を使ったのは今じゃないかと私は思った。
会社を出ると、以前一緒に飲んだ日と同じように、速水さんは車を待機させてくれていた。ピカンピカンとハザードランプを光らせている点も同じ。
「市田さん助手席どうぞ。俺酔いやすいんですよ、だから後ろ乗りますから。」
「や、私も後ろ乗るよ。」
そう言うも、
「あ俺のカバンと速水さんのカバンとで席埋まってるんで、前で…。」
ごめんなさいと内川くんは言葉を残すと、後部座席の方へ体を移動させドアを閉める。
まぁそういうことならしょうがないか…。
渋々私は、速水さんの横に座らせていただいた。
内川くんがいるってのに、彼の横に座るのはなんだか緊張する、速水さんがどこまで内川くんに相談してるのかまだ知らないってのに。
でもなんかどぎまぎするんだ。
例えるなら、知り合いに彼氏と一緒にいるところを見られたのと同じ感じ。そりゃ、まだ速水さんと付き合ってないけど。
「すみません、お願いします。」
シートベルトを着けると、
「内川の方が家近いから、そっち先いくね。」
速水さんはすぐに車を発進させた。
音楽は相変わらずついておらず静かな車内。速水さんの匂いだけが広がってる。たぶん、たばこの匂い。泊まった時彼が吸っていた。
「さっき恋愛トークしてたんですよ、市田さんと。」
内川くんは身を乗り出すように、ぐいっと運転席と助手席の間の隙間に顔を滑り込ませた。
「内川は好きだよね、恋愛事。」
速水さんが呆れたように笑う。その表情を見ていると、改めて内川くんと気心知れているんだなと思った。
「そうなんだ。」
私はちらりと振り返って内川くんを見る。
「まぁ今は全然縁遠いんですけどね。」
ははははと自嘲気味に笑った。