意地悪な片思い

 ところがどっこい、いや案の定というべきかな。思い通りに行かないというのが、恋愛と仕事なのかもしれない。


 時計の針はもう12時を回り、午前はとっくのとうに過ぎている。なのに私は思案していた機会をまだ一つも経験できていなかった。

 午前中雨宮さんのところに資料を届けに行く予定だったのだが、
思った以上に私の午前中の仕事が延びたせいで、そいつは今から届けに行くところ。

昼食はファイルを届け次第取ろうと思っているけれど、肝心の速水さんの姿はメインルームにない。

というか、朝以来見てないんだよね……


どこ行っちゃったんだろう、ファイルを持って立ち上がりながら隣の部署を軽く覗いてみる。
それでも、内川くんの姿すら見えなかった。

忙しいかもと想像していたけれど、かなり忙しいの間違いだったかもしれない。

私はおとなしく、階段を一段一段降り、下の部署の扉を開けた。


「雨宮さん、お願いできますか。」
 入り口付近にいた、男性社員さんに私は声をかける。

「雨宮さんですか?」

「はい。」
 一瞬その社員さんは視線を上にずらした。

「雨宮さん、今出ておられると思いますよ。姿見てないんで…。」

「…そう、ですか。」
 なんだか今日はツイてない日だな、速水さんどころか雨宮さんにさえふられてる。

「何の御用時ですか?」

「これ資料なんですけど、雨宮さんの席に置いていただいてて貰ってもよろしいですか?」

「あぁそういうことでしたら。」
 応対してくださった男性社員さんに頭を下げ、私は下の部署を後にする。


 階段もなんだかちんたら歩いてしまった。彼が都合よく現れないかなっていう下心から。
まぁ、現れないから、取り返すように途中から早歩きしたけど。

そのままお昼休憩に入るも、現状は同じ。

速水さん、外に出てらっしゃるのかな…
お昼用にとつぎ終わった給湯室のコーヒーの量は、半分より下だった。

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