意地悪な片思い
会社に着き席に座るとすぐに、彼が来ているかいつもの方法で確認した。
こうして、彼を盗み見るのは何回目になるんだろうな、もうすっかりこの方法馴れちゃったけど。
うん、来てるな。
脇からちらりと覗くと、彼である証の藍色のスーツが見て取れた。
ふたりで飲んでいるときに、木野さんが電話をかけていらっしゃった辺り、彼女はきっと今日忙しい。となると、速水さんも彼女のカバーに当たるだろうから、彼も忙しいはず。
迷惑をかけたくないけど…、私としては今日速水さんと話したい。
プツリと無理やり電話を切って、彼の追及の電話を無視して何言ってんだって感じだけど、でも話したいってのが私の気持ち。
都合よすぎ、って誰かに言われてたとしても、それが私の本心。
続けて私は、パソコンを起動させ、資料をカバンから取り出しながら思案を巡らせた。
一緒に話せるかもしれないタイミングは、午前は1階下に資料を届けに行くときだけ。階段でうまくすれ違うことができたら、少し話せるかなーってぐらい。
午後はお昼休憩のときと、資料室に行くとき。お昼が大本命かな、今のところは。給湯室でうまく鉢合わせできたらいいんだけど。
資料室のは、彼が絶賛お仕事中なはずだろうし、廊下ですれ違えたら良い方で、話すまでにたどり着けるか分からないんだ、そもそも。
どっちにしたって今分かってることは、機会は限られてるってこと。
私も仕事頑張らなくちゃだし……。
「市田。」
「はい。」
早速長嶋さんに呼ばれた私は、速水さんの方にもう一度視線をやりながらも、
現段階も併せて彼に報告し終えようとファイルを持って席を立った。