意地悪な片思い
「無理して飲まなくていいから。
好きなもんだけ食べな。」
こくんと私は頷く。
「えらい、えらい。」
ハハハっと彼の笑い声。
「餌付けはされないですからね。」
絞り出した一言は今できる、私の精一杯の虚勢。
でもあっけなく彼は「そうだね。」って言って負けを認めた。
また狡猾な表情で私を見てくると思っていた私は拍子抜けしたように目を丸め、
「餌付け、私されてないんですか?」
思わず聞き返してしまった。
彼はお酒をぐいっと飲む。
「餌付けどころか、俺のこと避けてたでしょ?」
じろりと瞳が私を捕まえた。
気づいてたんだ。
「……さ、避けてないです。」
私は彼から視線を外した。
「嘘だ。現に久しぶりに話してるじゃん。」
彼の視線をまだ感じる。
「それは…たまたまですよ、私たちそもそも普通に仕事してたら会話なんてするときないじゃないですか。
避けるも何も話さないのが普通です。」
筋は通ってる。
これなら彼も何も言えないはず。
「…じゃぁこういうよ。」
「俺は話したい。」
しまったと思った。
大事なところに牙が突き刺さった感覚がした。