クール上司の甘すぎ捕獲宣言!
「ごめん、ホントにごめん!」

朱音さんの彼氏--マサキさんの謝罪は続く。

特に聞き耳を立てているわけではないのに、夜の静寂のせいか、声が扉の外まで聞こえる。

「俺……逃げるつもりはなかったんだ……。でも子供が出来た、って聞かされて気が動転して……。小さい頃に俺の親が離婚してるの知ってるだろ……?」

「……知ってる」

「……父親に引き取られたけど、あんまり家に帰ってこない人で、気に入らないことがあると、すぐに暴れて手がつけられなくて……親から大事にされた記憶がないんだ……。だから……こんな俺が子供に愛情を注げるか、急に不安になって……」

朱音さんは、黙って聞いてるようだ。

「……でも、朱音が死のうとした、って聞いて、もし、朱音とお腹の子が助からなかったらどうしよう、って……その方がずっと怖かった……」

「……マサキ……」

「だから、これから先、俺が朱音と子供を守る
。守らせてくれ」

「…………本当に……?」

「約束する」

しばらく沈黙があって、朱音さんの涙声が聞こえてきた。

「……っ……もし……勝手にいなくなったり……したら……今度は……ぅっ…絶対に許さないからね……」

「うん」

ガタッと椅子が床をする音が聞こえた。

ああ、今マサキさんが立ち上がって、朱音さんの横に座って二人、抱きしめ合ってるのかもしれない。

……これから、大変なこともあると思うけど、どうか、授かった新しい命を大切にしてほしい。

私も、二人の新しい出発を応援したいと思った。

さっきまでの、「逃げる男は許さん!」というような息巻いた感情は、溶けてなくなっていた。

私はつながれた小野原さんの手を、ぎゅっと握り返す。

小野原さんは、無言で私の肩を抱き寄せた。

きっと小野原さんも私と同じことを思ってるのかも。

そんな気がした。



廊下の窓の外が、夜明けが近いことを示すように、白くなり始めていた。





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