クール上司の甘すぎ捕獲宣言!
うーん、これ以上聞いても最初の頃に聞いたのと同じか……。


やがて昼休みが終わり、笹倉さんは伝票の件で確認することがあるから、と経理部の方へ行った。

私は、業務部に戻るため、廊下を歩いていると。

向こうから、小野原課長がやって来るのが見えた。

……どうしよう、少し緊張する。

『俺の彼女になって』

そう言われた時の、真っ直ぐな瞳を思い出してしまう。

すれ違う時、何か、言葉を掛けられるじゃないかと思った。

でも……。

課長は、私を見ても、少しも表情を変えることなく、黙って横を通り過ぎた。

え……?

あまりにもあっさりした空気に、私の方が驚いてしまった。

……社内だから、きっと、そう。周りにも何人かいたし。

でも、目が合ったんなら、少しぐらい、表情を変えてくれても良かったのに。


……いやいや、何言ってるんだろう、私。付き合えない、って断ったのは私なのに。

もしかしら、課長は、私がオッケーを出さなかったから、もうあの話は無かったことにしよう、と思ってるのかもしれない。

なのに、それでも自分のことを気にしてほしい、なんて、ただの私の傲慢だ。

……いや、そもそも、私のことを好きと言ったのも、本気だったのか?

やっぱり、からかわれただけなんじゃないの?

そういえば連絡先も聞かれなかったし。その時は、それでホッとしたけど……。

“勘違いのアラサー女” ほど、イタイものはない。


思考の負のスパイラルにはまって、悩むのに疲れた私が出した結論は。

「うん。この前は何も聞かなかったことにしよう」

だった。


< 31 / 167 >

この作品をシェア

pagetop