婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
「こうなったら、人権侵害ギリギリの最低ラインまで譲歩してやる。『どうしても無理』じゃない限り、このふざけた結婚も受けてやる」


樹さんはそう言って、チッと舌打ちしながら私から目を逸らした。
社長は黙って顎をしゃくりながら、樹さんに続きを促す。


「でも、俺と生駒はオフィスでたった半年、先輩後輩の関係で過ごしただけだから。意識的に距離縮めないと、そんな判断も出来ないんだよ」

「えっ……ええっ……!?」

「ふむ……。まあ、それも一理あるな」


私の反応を丸無視して、社長は何度か小さく頷いた。
社長の反応に私はギョッと目を剥いた。
けれど、一言も返す間はなく。


「じゃ、決定」

「ええっ!?」


あまりにシレッと呟く樹さんを、私は大きく見開いた目で呆然と見つめた。
彼は表情も変えずに私を軽く見遣るだけ。


口をパクパクさせながら何も言えない私の方に、樹さんが目を伏せながらゆっくり歩み寄ってきた。
そして、すれ違いざま小さくボソッと呟く。


「逃げるなら、さっさと逃げろ」


ドクン……と胸の鼓動が重い音を発した。
思わず振り返った時、樹さんは一度も振り返ることなくドアを開け、社長室を後にしていた。
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