婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
「ご、ごめんなさい……」


さっきとは違う言葉で謝って、私は膝を抱える腕に力を込めた。
そしてそこに額を預け、肩を落として大きな息を吐く。


「……あの後、なんか言われたのか」


樹さんの低い声が、頭上から降ってくる。
その質問にピクッと一度肩を震わせたけど、私は黙って首を横に振った。


「そう? お前、あの後いつも以上に使い物にならなかったけど。それが通常運転だったか」


クッと短い笑い声を聞いて、私はそっと顔を上げる。
斜めの角度から横顔を見つめると、彼の横目が私に注がれた。


「なに」

「……気にしてくれてたんですか」

「どうしてそういう意味に捉えられるのかね、お前」


返ってくるのは、小バカにしたような笑い声じゃなく、苦笑いだった。
思い切って大きく顔を上げて、樹さんの横顔をしっかり横から見つめると、彼は再び缶を傾けた。


「……ごめんなさい」


ランチが始まったばかりで出て行ってしまった樹さんを思い出して、掠れそうな声で謝ると、無言のままの彼の視線を感じた。


「父になんて言っていいかわからなくて、余計なこと言ってしまいました」

「ああ」


目線を伏せながら続けた私に、樹さんは軽い口調でそう言って、あっという間に缶を空にすると、少し身を乗り出してテーブルの上に置いた。
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