婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
そう言いながら私から手を離した樹さんが、仰る通りどこかのフードコートみたいなテーブルを一瞥して、軽く腕組みをした。
ふむ、となにか思案する様子を見せる。


「……うちの新規事業のクルーズツアーのサブダイニングに、こういうのもありか。無国籍で、なんのまとまりもないバイキング」


いきなり仕事……というか、会社の新事業の話にまで構想を膨らませる樹さんに、私はハハッと空笑いしながら思わずパチパチと手を叩いた。


「そ、それいいですね! アジア各国を巡るクルーズツアーだし、乗客も日本人に限らないでしょうしっ!」

「うん」

「アイデアのヒントになったみたいで良かったです! あ、樹さん、早くお着替えを……」

「おい、話を誤魔化すな、帆夏。お前、俺の意識を『制裁』から逸らそうとしてるんだろ。魂胆、見え見えなんだよ」


再びキッチンに向かおうとして、今度は肘を引っ張られた。
不意打ちでグイッと引き寄せられて、バランスを崩した私の後頭部が、樹さんの胸にトンと当たってしまう。


「い、いえっ、別に私はなにも……!」


慌てて言い訳したけれど、完全に思考を見抜かれていて、声がひっくり返ってしまう。
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