婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
そう言って俯くと、私はギュッと手を握り締めた。
頭上から降ってきたのは、小さな溜め息だった。


「……お前、俺を宝物にするって宣言したの、忘れたのかよ?」


樹さんは呆れたようにそう言って、私の左手を掴み上げた。
もう片方の手をポケットから出し、指先でなにか摘み上げる。


樹さんを追って檀上から移動してきたライトに反射してキラッと光り、私はなにかわからなかった、けれど……。


「それ、返却は受け付けないから」


樹さんはそう言いながら私の薬指に滑らせた。


わずかに重みを感じる左手に、私はまだ呆然としたまま視線を落とした。
あまりにキラキラしてるから、ライトを浴びたままではちゃんと確認出来ない。
そおっと手を上げて目の前に翳してみて、やっとそれが指輪だと目で認識出来た。


「う、そ。……こんな」


小さなダイヤモンドがたくさん散りばめられた、花がモチーフのプラチナリング。
信じられないくらい豪華だけど、なんだかふんわりと可愛いデザインの指輪だった。


「帆夏に似合うと思って作らせものだから、他の誰かにやるわけにもいかないし返されても困る。俺は逃げる気もないから、お前もつべこべ言わずに俺のものになる覚悟決めろ」
< 218 / 236 >

この作品をシェア

pagetop