婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
樹さんはどこか拗ねたような表情を浮かべて、私からわずかに顔を背けながらそう言った。
リングを嵌めてもらった左手に見惚れる私の手を引っ掴むと、今通り過ぎてきた花道を引き返し始める。
「い、樹さ……」
強引に私を引き摺るように歩く樹さんの背中に、足を縺れさせながら呼び掛けた。
なにか言いたいのに、胸につかえて上手く声にならない。
「……話なら後でちゃんとする。今はすげー注目浴びてて言い辛いから。とにかく一緒に来て欲しい」
そう言って、私の返事を待たずに、まっすぐ演壇に向かって行った。
演壇の中央に歩を進めると、明るいギラギラのライトに照らされて、私は目を眩ませた。
「お騒がせしました。私の婚約者、生駒帆夏さんです」
コホンと一度咳払いした後、樹さんは私の肩を抱いて、たくさんの招待客に私を紹介してくれた。
あまりに眩しくて、目を開けていられない。
演壇から見下ろした招待客たちの表情なんか、全然見えずにわからないけれど。
前からも後ろからも、私と樹さんを取り囲むように全方向から、温かい拍手と祝福の声が耳に届いた。
その真ん中で樹さんの隣に並んで、私は……。
鼻の奥の方がツーンとして上手く声が出せなくて、ただ深々と頭を下げた。
麻痺したまま動かない思考。
涙が零れないようにするのが精一杯だった。
リングを嵌めてもらった左手に見惚れる私の手を引っ掴むと、今通り過ぎてきた花道を引き返し始める。
「い、樹さ……」
強引に私を引き摺るように歩く樹さんの背中に、足を縺れさせながら呼び掛けた。
なにか言いたいのに、胸につかえて上手く声にならない。
「……話なら後でちゃんとする。今はすげー注目浴びてて言い辛いから。とにかく一緒に来て欲しい」
そう言って、私の返事を待たずに、まっすぐ演壇に向かって行った。
演壇の中央に歩を進めると、明るいギラギラのライトに照らされて、私は目を眩ませた。
「お騒がせしました。私の婚約者、生駒帆夏さんです」
コホンと一度咳払いした後、樹さんは私の肩を抱いて、たくさんの招待客に私を紹介してくれた。
あまりに眩しくて、目を開けていられない。
演壇から見下ろした招待客たちの表情なんか、全然見えずにわからないけれど。
前からも後ろからも、私と樹さんを取り囲むように全方向から、温かい拍手と祝福の声が耳に届いた。
その真ん中で樹さんの隣に並んで、私は……。
鼻の奥の方がツーンとして上手く声が出せなくて、ただ深々と頭を下げた。
麻痺したまま動かない思考。
涙が零れないようにするのが精一杯だった。