婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
「じゃ」


まるでオフィスで帰宅間際に交わす挨拶のように、樹さんは短くそう言って自分の部屋に入って行った。
私が返す返事も聞かずに、バタンと音を立ててドアが閉まる。


樹さんが消えて行ったドアと、今自分の前に開け放たれた部屋を見て、私は大きく肩を落とした。
確かに……深読みして足を竦ませながらここまで辿り着いたけど。


「……本当に、テストするつもりもないってことか……」


ホッとしたのか、残念なのか悔しいのか。
あまりに複雑で、自分の気持ちもよくわからない。


そんな気分で、私はスゴスゴと自分の部屋に足を踏み入れ、背中でドアを静かに閉めた。
スーツケースを横にしていると、本当にただホテルの部屋に一人でチェックインしただけのような気分になる。


思わず深い溜め息をつき、私は天井を静かに見上げた。


ここから奮起してリベンジ……。
でも、どうやって?


私の脳裏には、三ヵ月後の樹さんの決断が目に見えるようにリアルに浮かび上がっていた。
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