婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
お試し同居初日の夜――。
樹さんは昼から出掛けたっきりで、午後十一時を回っても帰ってこない。


家事は別々と言われたけれど、これまで一人暮らしの経験のない私には一人分の食事を作ることが難しくて、なんとなく多目に作ってしまった夕飯の残りを、ラップに包んでキッチンに置いたままにしていた。
残っちゃったからと言って出せば、樹さんももしかしたら食べてくれるかな~と思ったけれど、どうやらもう今日は無理っぽい。


一人では居心地悪いくらい広いリビングのソファで膝を抱えて、私はテレビの大きな画面に目を向けていた。
いつもなら声を上げて笑えるジョークにも全然気持ちが動かず、思わず小さな溜め息を漏らしてしまう。
そんな状態を何度も繰り返した、その時。


カチッとドアが開く音が玄関から聞こえてきた。
ほとんど条件反射で弾かれたように立ち上がり、私はリビングのドアを大きく開けた。


「い、樹さんっ……!」


廊下の先の玄関で、樹さんが背を屈めて靴を脱いでいた。
私の声に気付いて、フッと顔を上げる。


「……なんだお前。まだ起きてたのか?」


返ってくる声は相変わらず素っ気ないけど、ちょっと呂律が怪しい。
この時間だし、飲んできたのはわかる。
私は寝間着の上から羽織ったカーディガンを前で合わせながら、パタパタとスリッパを鳴らして玄関に走り出た。
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