夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく
ポケットの中でスマホが震えた。

見ると、『今日もお迎えできないの?』というお母さんからのメッセージ。


無理に決まってるでしょ、何回言ったら分かってくれるの。

そう返したい気持ちをなんとか抑えて、『ごめん、忙しくて無理そう』と打った。


本当は忙しくなんてないけれど。

青磁の横で間抜けに突っ立っているだけだけれど。


でも、ここから立ち去るわけにはいかない。


「おー、やってるなあ」


いきなり背後から声がして、振り向くと担任がいた。


「いやー、夏休み中はどうなることかと内心はらはらしてたけど、なんとかなりそうだな」


リハーサル風景を見ながら先生は満足げに笑っている。

私は曖昧に「そうですね」と頷いた。


「さすがだな、丹羽。お前が委員長で良かったよ」


ずきんと胸が痛む。


私はゆっくりと目をあげて、「違います」と言った。

でも、その声は小さすぎて、ステージから先生を呼ぶ主役二人の声にかき消されてしまった。


違います、私じゃなくて青磁がみんなを動かしてくれたんです。


そう言わなければいけなかったのに、先生は私に背を見せながらステージの方へ行ってしまった。


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