恋愛の始め方
新たなスタート
お母さんの手術から、早数週間。

お母さんの様態は相変わらずで、悪くなることもないが、良くなる兆しも見えない。

お母さんの回復を諦めたわけではないが、医療の限界に、医師としての無力さを思い知らされていた。

盛大なため息と共に、あたしはお母さんのカルテを閉じた。

今日も来たんだ。

救命と自分の病院の仕事で手一杯なはずなのに、直哉は時間を見つけては、お母さんの元へと足を運んでいる。

誰かが止めたところで、直哉の性格だから、自分で決めたことを貫き通すに違いない。

でも、このままじゃ、直哉は体を壊す。

あたしはカルテを元の場所に戻し、直哉の後を追うようにお母さんの病室へと向かった。

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