どん底女と救世主。



お願いします、課長。うまく誤魔化してください。

このままだと、私のせいで課長にあらぬ噂が立ってしまう。

たまたまこっちに来ていた母親が作ってくれたとか、自分の趣味は実は料理だとか。

なんでもいいから誤魔化して!

という私の切なる思いは課長には届かなかったらしく。


「いや、俺料理とかしないから 」


ーーどさ。

あ、澤田さんがおにぎりを机の上に落とした…。


きっぱりと否定した深山課長に、一瞬課内がしんと静まり返る。

そんななか、中田君がもう一度濱下さんの方を見た。


ーー『行け!』


右手を上に突き上げて、『ゴー、ゴー!』と興奮しながら口をパクパクさせる濱下さん。

中田君は小さく息を吸って、もう一度口を開いた。


「もしかして彼女さんからの愛情弁当とか…?」


中田君の探るような弱々しい声が、営業一課内に響き渡る。


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