どん底女と救世主。
「課長、ち、ちかいです…」
「わざとだけど」
勇気を振り絞って訴えたのに、例のごとく不遜な一言であしらわれる。
わざとって…!
というか課長、どんどん近づいてきてない?!
じわりじわりと距離を縮められ、ふたりの身体はもう密着寸前のところまで来ていた。
もうだめだ、耐えきれない。
「い、行かないですからっ!」
そう叫ぶように訴えると、
「そうか」
そう言って、あっさりと拘束を解かれ、課長の身体がすっと離れて行った。
目の前の課長は、心なしか満足そうに見える。
ばちりと視線が絡み合い、逸らすことが出来ずに見つめ合ったまま私と課長はその場にどのくらい佇んでいただろう。
ーーーキンコンカンコーン。
休憩時間終了後を告げるチャイムが鳴り響いた。
その音のおかげで、ようやく私はここが会社だったんだと思い出す。
はっとすると同時に、課長の横をすり抜けてその場から逃げた。
痛いくらいにバクバクと鳴り響く心臓を押さえながら。