どん底女と救世主。


「やめろ、そいつとあのたぬき親父のどこが似てるって言うんだ」

「たぬき親父って…」


至極嫌そうな顔をしながら、我らが本部長のことをたぬき親父と呼んだ深山課長は、


「余計な仕事増やし過ぎなんだ、あの人は。やたらミーティングしたがるし」


と、ぼそっと吐き出すように呟くとまだ辛うじて湯気を立てていたコーヒーを一口啜る。


珍しいな。課長が仕事の愚痴言うの。
というか、初めて聞いたかもしれない…。


「いいんですか?本部長のことをたぬき親父呼ばわりしても」


拗ねたように愚痴る課長がなんだか新鮮で、思わず笑いながらそう聞くと、課長はまたあまり声を張らずに言った。


「いいだろ。お前の前でくらい愚痴っても」



ーーずきゅん。



比喩でもなんでもなく。明確に今、胸の奥でそんな音がした。

しかも、かなりの大音量で。これ、課長に聴こえてないよね?


というか、今の何の音なの。
というか、なんでこんなに顔が熱くなってるの。心臓が痛いくらい高鳴ってるの。


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