どん底女と救世主。


「あの日、あの夜。またあいつに泣かされたお前見たら我慢できなくなった。
と思ったらお前、居なくなってるし」


ぼやくような声が聞こえたと思ったら、肩に重みを感じた。

右肩に温かい重み。課長が頭を乗せている。


「あれは堪えた」


初めて聞く、課長の弱々しい声。


「ごめんなさい…」


その声と、矢部君が言っていたことも蘇り罪悪感が募る。
これは本当に、逃げた私が悪い。


「課長」

「ん?」


気持ちを切り替えて課長を呼ぶと、課長は私の肩からゆっくりと頭を起こした。

それを合図に、意を決して問い掛ける。


「課長のマンションに戻ってもいいですか?
というか、ごめんなさい。課長が名古屋に行ってる間もあそこに居たんですけど」

「まあ、それはいいが。居候としてか?」


試すような顔で、目で逆に問い掛けてくる課長は、意地悪だ。


「それ、私から言わないとダメですか?」

「散々俺を待たせた罰だ」


大きくて、冷たい手が私の頰を包む。

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