どん底女と救世主。
「なかなか進みませんね」
「そうだな」
誰もがきちんと列を成し、生真面目に並ぶ列の中、隣に並ぶ彼女は『寒い』と鼻を赤く染めて手を顔の前で手をこすり合せる。
そんな姿に、柄にもなく胸の奥がじわりと熱くなったり、そのまま抱き寄せたくなってしまうのは、自分も歳を取った証拠だろうか。
これが、愛おしいという感覚なのか。
やはり、柄じゃないな。
彼女は、あまり口数の多くない俺の気持ちを汲み取ってくれる有難い存在で。
見た目からは想像できないほど根性があって。
昔、教育係をしていたときなんかには結構厳しくしたもんだが、弱音ひとつ溢さず食らいついて来た。
なのに、3年振りに帰ってくると彼女はボロボロだった。原因は男のことだ。
前の男にこっ酷く裏切られた彼女は、酷く傷ついていた。
そいつの顔を思い出すだけで胸糞悪くなる。
だが、そこに付け入ったのも事実だ。