パンデルフィーの花びら
ひとり残されたライナは、ミレーヌが触っていた可憐な花を見つめる。今さっきのやり取りで、先日イルミスに会ったときに芽生えた高揚した気持ちはすっかり萎んでしまっていた。結局彼は、自分とは交わることのない道を歩いている。
(やっぱり、夢なんて見るものではないわ。遠くて近寄れない、雲のような方)
どんなに素敵な夢を見ていても、覚めたら希望の見えない現実が待っている。
ーーライナはそっと、ため息を吐いた。
それに、そろそろ次の働き口を探さなければならない。そのことでライナはあれからずっと悩んでいた。
できればこのまま花売りを続けたいが、そうも言っていられない。祖母の評判のおかげで何とかここまで生きてこられたが、親族も頼るところもライナには残されていなかった。
(家を手放して、どこかへ奉公に出るしかないのかしら……)
見上げると、いつの間にか青空は隠れてしまっていて今にも雨が降り出しそうだ。
空を覆いつくすように広がった雨雲は、ライナの気持ちを表すような鼠色をしていた。