とある国のおとぎ話





 こんなに早く戻ることになるとは思わなかったが、不穏分子が内部にいるという話は辺境の地でも耳にしていた。


 中央の様子を細部に渡るまで、憶測の域を出ないものまで報告するように命令し、その報告の一つがこれ。


 そして、この情報を聞いた時から、気が気じゃなかった。


 もしかしたらと嫌な予感が俺の中で駆け巡っていたのは事実。


 だからこそ、中央に戻れることは感謝すべき事柄なのだ。


 どこにいても、この男の駒でしかないのだから近くても遠くても変わりないではないか。


 自分に言い聞かせる。


 そう、どうしようもないのだ。


 もう、逃げ場などどこにもない。



「傍にいたい女性がいるだろうに。素直じゃないね。いや、傍にいなければならない女性かな?」



 くすくすおかしそうに笑う男の言葉に、手が震えた。


 慌てて、動揺を隠すため手に拳を握る。


 まさか、彼女のわけがない。


 彼女がこの男を裏切るはずがない。


 気付くはずがない。


 息を必死に押し殺す。


 俺を生かすも、殺すもこの男次第。




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